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企業の発展に欠かせないのは社員のスキルアップ・モチベーションアップです。そのためには働く社員が各業務に応じて現場に適応した知識やスキルを習得して成長し続けることが重要なカギです。今回は接客研修を効果的に行うポイントと、ケースバイケースで使い分ける社員教育の方法についてお伝えします。人材育成の一環として研修を企画したいがどんな方法があるのか?とお考えの方が比較検討するための参考になれば幸いです。

     株式会社 ア・ソリューション 代表取締役 髙橋 伸枝

1. 3つの手法

まず初めに、接客研修に限らず社員教育をしようと考えた時に混同しやすい3つの方法について紹介します。講演・セミナー・研修の違いは何なのか?それぞれの特徴を知って、どの方法が良いのか対象者や目的・状況に応じた使い分けが可能です。どの方法もあくまで「受ける側」の心構えによって、その効果が左右されます。何かを得よう、取り入れようして積極的に参加するためには実施する前の事前準備やアナウンスの仕方が大切です。

❶ 講演の特徴

有名人・著名人を招いて行うのが一般的でスポーツ選手や大学教授、芸能人などに依頼して伝えたいテーマについて60分~120分程度、話を聞かせます。講演の定義は「大勢の人の前である題目に従って演説すること」なので、有名人でなくとも現場経験を持ち、研修ビジネスを本業としている講師が自分自身の経験から得たことをリアルに伝える講演もあります。題目例としては① 心の豊かさとは何か ② 人を惹きつける話し方5つのポイント ③ 現代社会の顧客心理 ④ ホスピタリティ接客とは何か? などのように、対象者を限定せず年齢層・性別に関係なくそのテーマに興味があって理解を深めたい人たちに向けた内容です。参加人数も数十名~100名以上など様々で講演者が話をする一方通行のため参加者との交流は少なく、意見交換・質疑応答の時間がないことがほとんどです。社内での実施はイベント的な要素が強く、教育という意味合いからは少し離れますが気づき・感動・考えるきっかけを作るのが講演です。

❷ セミナーの特徴

講演との違いは対象とする参加者に合わせた「テーマ」が明確なことです。テーマに対して必要な知識・知見を持つ講師が参加者に教えるというスタイルです。参加者側も、そのテーマに関心がある人だけが集まることになるので、講演とは違い特定された人が参加します。人数は少人数~数十名の中規模まで様々です。講師が一方的に話す形式ですが、途中で質疑応答や意見交換の時間を設けるケースもあります。テーマ例としては① 顧客を増やす接客セミナー ② 好印象を与える話し方セミナー ③ 販売力アップセミナー など強化・改善したいテーマについて「ノウハウを提供する」のがセミナーです。

■ 社内主催セミナーと社外オープンセミナー

社内:そのテーマにふさわしい講師を招いて実施します。社外のオープンセミナーと違い、事前に講師と詳細な打合せが可能なので、受講者が手や体を動かすワークショップを取り入れたり質疑応答の時間を設けることができます。又、参加者のキャリアや課題に合った話の組み立ても依頼できます。但し講師の話を聞くことがメインのため、参加者の集中力の点から比較的短時間での実施が有効です。

社外:個人が自費で自己啓発的な要素として参加することが多いですが、会社として対象社員に伝えたいテーマがあれば業務の一環として参加させる場合もあります。何を得られたのかを知るために終了後はレポートを提出させるなどのフォローが必須です。社内主催のセミナーとの違いは様々な企業からの参加者と情報交換したり新たな知り合いが出来たりと対人交流の場にもなり得ることです。

➌ 研修の特徴

研修は企業の人材育成を目的とした業務の一部に位置づけられます。業務上必要な知識・技術・マインド形成まで、そのテーマに基づき一貫性のある内容が求められます。講演とは違って勉強会であり研究会でもあるので、一方通行ではなく受講者の理解を確かめながら進める必要があります。そのため、講義/ワーク/ロールプレイングを組み合わせて現場で実践可能なスキルを習得することが目的です。社内のトレーナーが実施する場合と外部講師に依頼する2つの方法があります。幹部クラスから一般社員、新入社員などそれぞれに必要なスキルを習得するために、受講対象者の年齢・キャリア・ポジションなども加味したプログラム構成が重要な鍵となります。

■ 社内研修のメリット

1.自社の現場を良く知るトレーナーが担当できる
2.いつでも望むタイミングで実施できる
3.受講者がリラックスして受けられる
4.経費がほとんどかからない(トレーナーが各地域へ出向く出張経費/会場がない場合の費用のみ)

■ 外部講師による研修のメリット

1.同業他社・同業界の成功事例が聞ける
2.第三者目線の内容で課題の明確化と解決策が見つかる(事前打ち合わせで方向性を共有する)
3.自社以外の教材ツールが手に入る
4.受講者が新鮮な気持ちとほど良い緊張感で受けられる


★ 3つの手法の違い

講演:聞かせる 👉 楽しかった!感動した!参考になった!
セミナー:教える 👉 ためになった!初めて知った!勉強になった!
研修:習得させる 👉 自分を知ることができた!他者と情報共有・情報交換できた!やるべきことが明確になった!
このように受講者に何を残したいのか? たとえば、長期で目標達成したご褒美に有名人の話を聞かせる講演会を実施するなど、その目的とゴールに合わせた手法選びがポイントです。


2. 接客研修に必要なこと

時代と共に顧客ニーズも変化するので接客業のあるべき姿も変化します。接客業、なのに接客を必要としないお客様に頭を悩ませている販売員もいます。又、自分がお客様としての良い接客を受けた経験がない社員も増えています。それでは気づけ、と言っても気づくことができません。お客様は本当に接客を必要としていないのでしょうか?そう感じた理由はなんでしょうか?たとえばモノを買おうとした時、インターネットで簡単に自宅に届く時代です。食事をするにもデリバリーが充実しています。そんな中、お店に行く楽しみ・行く理由を作れるのはそこにいるスタッフに他なりません。研修とは読んで字のごとく「磨いて習得する場」です。接客の質を高めるためには、社内で行う場合も外部講師を使う場合も共通して必要なことがあります。

❶ 効果的な研修にするには?

1.受ける前に「受ける気」にさせる・・・出来ていないことを指摘されるのでは?という不安を取り除く。今よりもっと接客が楽しくなることをキーワードにする
2.現状に則したケーススタディを用意する・・・小規模店舗~大型店舗、配属人数などの差に応じたケーススタディを複数用意して必ず自店に当てはまるようにする
3.外部講師に事前にお店を見てもらう・・・受講者がどんな環境で働いているのか?その店にはどんなお客様が来ているのか?などを知って準備する
4.自分に置き換える習慣マインドを作る・・・客観的な視点で自分の接客を振り返る習慣を作る。相手の身になる・お客様の立場になることを具現化する

❷ 素直に学べるロールプレイング

接客販売の研修で最も効果的に学習できるのはロールプレイングです。講師が一時間話すより、30分のロールプレイングの方がはるかに分かりやすい方法です。会場に仮想店舗を見立てて、普段から取り扱う商品を用意して行います。実際の研修の所要時間の30%程度をロールプレイングに充てると、体感して肌で感じられるため映像として脳裏に焼き付けられる効果があります。しかし、受講者にしてみればまるで自分の接客がテストされるような緊張感とプレッシャーがかかります。素直な気持ちで臨むための10個のポイントを紹介します。
1. 実際に起こり得るケースを設定する・・・あまりレアなケースは避ける
2. どんなベテランでも緊張する・・・音楽をかけるなどリラックスしたムード作り
3. 可能な限り全員参加にする・・・全員が体を動かす工夫をする(傍観者にならない)
4. お客様役/スタッフ役は受講者の中で決める・・・オブザーバー/講師は参加しない
5. 一つのケースは10分以内にする・・・長すぎると伝わらない
6. 終わったらスタッフ役を最初にコメントさせる・・・本人の気づき・反省点を聞く
7. 次にお客様役に感想を聞く・・・6の効果でうまくいかなくても落ち込まない
8. 見ている人はコメント表を活用する・・・最後に仲間からのアドバイスとして渡す
9. 良かった点・改善点を明確にする・・・どちらかに偏ったコメントは避ける
10.最後に必ず講師がまとめる・・・・何が得られたか?今後に備えるまとめを行う

ロールプレイングの最大の効果はお客様役を体験することです。身内の練習であっても、「こうするとこういう気持ちになる」ことを体感することが大切です。そのためにはお客様役になりきることで成功します。

➌ 顧客視点のフィードバック

フィードバックとはフィード+バック=与えて返すという意味があります。接客というテーマは必ず相手があることです。お客様の身になるとはどういうことか?に基づき、良いか悪いか評価するのではなく、何が嬉しくて何が嫌がるのかを顧客の目線から一緒に考えて気づきを与えることが重要です。研修中、講師とのやり取りの中から得られるものは大きく、その影響も大きいものです。
1.受講者のコメントに対するフィードバック・・・①ネガティブなコメントを肯定的に受け止める②間違ったコメントを否定しない③何故そう考えるのか?理由を共有する④強制的に合意させない
2.ロールプレイングのフィードバック・・・①講師・トレーナーとしてでなく「お客様の視点・目線」から伝える②販売を伴うケースは売れたか売れないかを指標にしない③感じが良い&好印象など漠然とした表現ではなく何が?どのように?かを具体的に伝える
3.受講者の質問に対するフィードバック・・・①質問そのものを評価する②投げ返し質問で答えを引き出す(自分がお客様ならどうして欲しいか)③最後には明確な答えを伝える(あいまいに終わらせない)



3. 研修後のフォロー活動

研修は終わってからが始まりです。習得した知識・技術を現場で活かすにはフォローが必要です。研修直後はやる気に満ち溢れていても、実際に試したら想像以上に難しかった・お客様の反応が悪かったなど、思い通りにいかず実行するのをやめてしまっては何にもなりません。更には、いざお客様を目の前にしたら不安で試せない・どうやるのか忘れたなど、人によってせっかく学んだことが実行できない理由は様々です。フォローするにもいくつかの方法と注意点があります。

❶ 自発的に行動に移すには?

研修終了後に、これまでやってきて1.変えなくていいこと 2.今後改善すべきこととその方法について各自が記入できるシートを作成します。目で見て確認できるメリットに加えて、自分で書くということは本当に分かっていないとできないため、何が印象に残ったか?どうなりたいのか?などを自覚して自分に決意表明することが大切です。他人に指摘されたことよりも、自覚したことの方が課題として取り組みやすいものです。上司/上長はそのシートを共有して褒める・指導することに活用することが行動継続のカギです。

❷ 現場検証とチェックのしかた

研修がどのように活かされているのか?実施前と実施後の変化は?などはやはり現場での検証が必要です。ポイントとなるのは、接客を受けているお客様の反応と様子です。スタッフが何を言ったかの発言ではなくお客様の行動が指標となります。研修内容ズバリ、を実行しているかどうかでなく各スタッフが自分の気づきを行動に移したことによるお客様の変化・動向が基準です。客数が増えた・リピーターが増えた・買上点数が増えた・単価が上がったなどなどお客様が下さる指標はたくさんあります。そして、スタッフが活き活きと楽しそうに接客したり働いていればその研修は成功と言えます。チェックで気を付けたいのは研修後一カ月→三ケ月→半年と、定期的に行うことです。大切なのは、見てくれている安心感と見られている緊張感をスタッフに持ってもらうことです。

➌ フォローアップ研修のメリットとは?

研修から一定期間を経過して行うのがフォローアップ研修です。現場で試してどうだったのか?理想と現実のギャップはどのくらいあるのか?どんな成果があったかなかったか、などを事前課題で収集します。もちろん、忘れていたことを思い出してもらうことも大切ですが、取組みに対する振り返りを次のステップアップにつなげることが目的です。社内であっても、外部講師による場合でもリ・トレーニングはメリット大です。現場での不具合や成功事例を受講者同士で共有・共感することでモチベーションアップにもなります。気を付けたいことは、フォローアップと称して新たなテーマを設けてしまうことです。あくまで前回研修の内容に限定して、その後を確認して実行度合いに応じたサポートをすることが研修効果を高めることにつながります。

まとめ

いかがでしたか?社員教育はいつの時代も必要なことですが、会社のロイヤリティにつながるような研修を企画できれば離職防止にもなります。セミナーも研修も勉強、ノウハウ習得が目的ですが刺激・きっかけ・気づきによってマンネリ化しないようにすることも大切な要素です。義務的に受講するのでなく会社が用意してくれたありがたい機会であると社員が感じてくれたら嬉しいですよね。

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